2025/02/18  
電源ケーブルによる音質向上効果に関して(ロジウムめっきの補足)

「めっきというかロジウム信仰に関して」

『メーカーも消費者も「めっき無しが一番音が良いんだよね。だけど酸化するからめっきがいるんだよ!中でも(めっき層をたくさん持っている)ロジウムめっきが音が良いんだよね!」と思っているなら、理論的に破綻していることに気づいたほうが良い。無めっきが音が良いことと多層めっきが音が良いことは理論的な整合が取れていない。』

と書いたが、「余計なもの追加して音質が良くなる現象あるよね?電源ケーブルとか。ならロジウムめっきも同じ現象で音質良くなってるんじゃないの?」
と上級者の人から突っ込み入れられそうなので追記しておく。


 確かに何かを追加して音が良くなるという現象は存在する。電源ケーブルでもタップを経由したほうがコンセント直結よりも音質が良くなったり、スピーカーケーブルの先端に良いケーブルを継ぎ足すと音質が良くなる、いわゆる継ぎ足し効果と言われている現象があります。
ただし、これは継ぎ足す直前のケーブルよりも継ぎ足すケーブルが高特性であることが条件になります。高特性ケーブルでないと継ぎ足し効果は起きません。その辺に転がっているような平凡なケーブルだと、理論通り音悪くなります。

なぜそのような現象が起きるのでしょうか?



結論から書くと
ケーブルが高特性ということはそのケーブルが発するノイズが少なくローノイズということを意味します。VVFなど屋内の内部配線も電気が通るたびにノイズを放射し続けていますが、高特性の電源ケーブルを付けてローノイズな区間を設けることで、その区間がノイズの減衰領域として働きます。部品にはノイズを発する効果と同時にノイズを減衰させる効果があるということです。つまり足し算でなく引き算で音質を上げているということです。



このことは電源ケーブルを継ぎ足しするとすぐに分かります。ちょっと音が良くなるケーブルとすごく音が良くなるケーブルを用意してそれを継ぎ足しする。この場合、すごく音が良くなるケーブルがアンプ側に近いつなぎ方の方が音が良い。多数の人は「アンプ側に近いほうがケーブルの影響が大きいのでその通りだろう。」とそう考えるでしょう。
ではすごく音が良くなるケーブルを継ぎ足しせずにアンプに繋いだ場合と、すごく音が良くなるケーブルとアンプの間にちょっと音が良くなるケーブルを挟んだ場合はどうでしょうか?
電源ケーブルで音質が良くなるのが演出によるものなら、足し算で音質が良くなっているのなら、おそらく音が良くなるでしょう。ですが、この場合逆に音質が悪くなります。すごく音が良くなるケーブルから見ると、ちょっと音が良くなるケーブルはノイズ源に過ぎないからね。アンプに伝ってくるノイズ量が増えてしまう。

後は市販品を買っただけでは分からないことですが、電源ケーブルと特性の相関性は極めて高いのです。ノイズ対策をしてケーブルの発するノイズを極力減らす設計をした方が音が良い。このことからも演出でないことはすぐに分かります。ここは実際に作らないと分からないけどね。

これらの理論から導き出される結論は

・電源ケーブルによる音質向上は演出でなく本質的に音が良くなっているのか?と言われたら良くなっていると言える。 よく「電源ケーブルは演出や色付けで音を良く感じさせてるだけ」って言う人がいるけど、そもそも演出で解像度や定位は改善はしない。演出で音が良くなるならイコライザーでいくらでも音は良くできるだろう。

・電源ケーブルによる音質の向上はケーブル自体がローノイズかどうかがすべてなので、無限に音が良くできるわけではない。おのずと限界はある。減らせるノイズが無くなればそれ以上は音は良くできない。もっともケーブルに限らず、オーディオではローノイズ化が音質の向上に繋がるわけだし、原音より音は良くできないので、オーディオ自体に音質限界はあるのだけど。

・例え完全にノイズがない電気がコンセントに来ていても、電源ケーブルで音は変わる。なぜなら電源ケーブル自体がノイズを発するから。これは完璧なプレーヤー、アンプを使ったらSPケーブルで音が変わらないか問題と似ている。要は既存の電源装置ではノイズを完全に除去できていないということを意味している。まぁ、完全な電源装置が出来たとして、その先のアンプの配線、部品、SPケーブルが問題になってくるのだけど。
現状の認識では電源ケーブルで音質を上げるのは理論的には抜本的な解決策とは言えない。のだが、SPケーブルレベルで音質が向上するという認識。

と言ったところでしょうか。

電源ケーブルの効果は、ほぼ同仕様のケーブルを使うとSPケーブルと同等レベルの音質向上効果があると言った感じ。
SPケーブルは左右CH分必要で、しかも配置によっては3-4mの長尺が必要です。そこいくと電源ケーブルは2mかそこらのケーブル1本で済むのでコスパが良い。なので実験的に何か作って効果を確かめたい場合は電源ケーブルで作ることが多いです。というか私は電源ケーブルが大好きなんだ。

あと音だけでなく、映像も電源ケーブルで向上させることができます。効果としては制御信号の微細ノイズが減るので、液晶の配向の微細な揺れが少なくなって、色のくすみが取れる。色彩感が良くなって微妙な色の違いが分かりやすくなる(色数が増えた感じになる)。精細感が良くなるといった感じ。良くレビューでは解像度が良くなったと表現されますが、これは2Kが4Kになるとかパネルのドット数が増えるという意味での解像度でなく、精細感が良くなるのをそう表現しているのだと思います。 ただ、映像で良くなったと感じるレベルにするには、相当にハイパフォーマンスなケーブルでないと難しいと思います。体感では音の1/5くらいの効果しかありません。有機ELだともっとわかりやすいのかもしれませんが。今度本気モードのケーブル作ってどれくらい良くなるか試してみようと思っている。




 ところが電源ケーブルの効果で検索すると「電源ケーブルはコスパが悪い。」とか「オーディオ用電源ケーブルは買ってはいけない」 との否定的な意見が散見されました。そして「電源ケーブルすげぇ・・・」って意見は一個もない。個人的には「電源ケーブルすげぇ!」と思っているので、そのギャップに困惑してしまいました。正直良いケーブルだとアンプ買い替えるの馬鹿らしくなるくらい変わるからね。


私は市販のオーディオ電源ケーブル事情は知らないけど、5万以下のケーブルだと、+-線とアース線の3本の導体をシースの中に詰めたいわゆるキャブタイヤケーブルタイプが多いと思います。要は一般的な付属の電源ケーブルを導体量を増やして、さらにそれにシールドを施して大型化したタイプです。
メーカーとしては「プレミアムな高純度導体使って伝送ロスを減らしましたよ〜」「導体量を増やして、瞬間的な供給能力を上げましたよ〜」と消費者にアピールしたいわけです。



これらのケーブルが付属ケーブルに劣っている点はあるか?と言われると実はあります。以前のコラムを熟読している情報感度の高い読者には自明と思いますが、

まず、1本あたりの導体量を2sq以上にしているということ。導体量が2sq以上になってくると表皮効果の影響を受けて低音寄りっぽく聞こえる癖が出てきます。その点標準ケーブルの方が素直な音と言えます。そもそも2sq以上いらないと思う。
1sqでも1.25sqでも音質面では問題ないと思いますが、1.25sqでも1000wくらい流すと発熱けっこうしちゃうし、タップに繋げること考えると、もう少し余裕をもって2sqくらいが妥当かなと。1.6mmの屋内配線とほぼ同じsq数だし。多芯にすればsq数を稼ぎつつ、バランスの取れた音に出来ますが、それならsq数は2sq程度に抑えてより細い線を使った方が音質的に優位です。みんなが思っているほど直流抵抗による音質への影響ってそんなに大きくない。メーカーが2sq,3.5sq,5.5sqの電源ケーブルがラインナップしている場合、相当の大電流を必要としない限りは2sqを選択したほうが良い。


次に導体量を増やしたせいで可とう性を確保しようとすると撚線数を増やさざる得ないということ。撚線数が増えるとこれもノイズの発生源になり、音がぼやけていきます。PSEの関係で撚線にせざる得ないのは分かりますが、7本とか4本、3本の準単線にすればもっと音良くなります。そう思うのですが、そういう製品が見当たらないところを見ると、何かしらの問題があってPSEが下りなかったりするんでしょうかね?そんなこと気にする人は屋内配線として売ってる切り売り単線にプラグくっつけてねってことなんでしょうか?


それから導体量が増えるってことは、導体の表面積が増えていきます。そして導体の表面積が増えるってことは、絶縁材料やシースの量も増えていきます。導体や絶縁材料やシースは電気が通るたびにノイズを発するので、材料の量が増えると素材固有の癖が出やすくなります。特に絶縁材料だけでなく導体自体もノイズを発するので、導体の表面積が大きい極太ケーブルはその点でも音質面でデメリットがあります。極太=低抵抗だから良いと考えがちですが、必ずしもメリットばかりではないのです。
もちろん、こういったオーディオ用のケーブルには高品質な材料が使われているので、材料自体は標準ケーブルのものよりローノイズで高音質な可能性は高いと思います。大差ない可能性もありますが。ですがいくらローノイズな材料でも大量に使ってしまっては、ノイズ量がかえって増えてしまったということになりかねません。

シールドが施されていることもありますが、シールドは貼り方で音が変わるし、個別に聴いて判断するしかありません。うまく実装していれば音質が向上する可能性は十分あります。良くないと音質が悪化します。私が試した市販品ケーブルの音質だと、シールドの効果は大概は毒にも薬にもならない感じに収まっている感じかな。

構造に関しては3線のキャブタイヤタイプなので、標準ケーブルと変わりありません。高価なケーブルは構造によってもアドバンテージを得ています。構造によっても定位や解像度はかなり変わりますが、キャブタイヤタイプのケーブルだとこういった構造的なアドバンテージは得られません。厳密には撚りピッチでも音質は変わりますが、ほとんどのメーカーはそこまで気にかけて作っていないので、ここは気にしなくても良いでしょう。撚りピッチにまで気を配るレベルの設計者ならその前に構造に凝るでしょうしね。


こうやって冷静に構造を解析して批評すると
上で上げたタイプのケーブルって、「プレミアムな素材を使っている」それ以外のアドバンテージが標準ケーブルに対してないと思います。そしてそのローノイズなプレミアム素材も大量に使っているせいで台無しになっているという。なんというかコスト掛けて大量の資源使ったのに、音悪くなってしまったという。本末転倒なのが多いと思いました。結局、音ではなく消費者にどうアピールするかで作っているのでしょう。「電源ケーブルはコスパが悪い。」とか「オーディオ用電源ケーブルは買ってはいけない」こういう意見が大半を占めるようになったらおわりですよ。
消費者側も何も知らないから「導体量が多いほうがえらい!」と思って、こういうケーブル買う人が多いんでしょうけど、メーカー側はそれにのっかてしょうもないケーブル作りすぎ。もっと音に真摯に向き合うべき。
「客が求めている物を売っているだけだ。何が悪い」って反論もあるかもしれませんが、何も知らない素人が考える最強のケーブルなんて価格が高いだけの碌でもないものに決まっているだろう。それを製品として形にして素人に刺さる部分をアピールして売るのはどうかと思う。私も一応ケーブル売っているわけで、こういうことは言うべきではないのかもしれません。ですが、「電源ケーブルはコスパが悪い。」とか「オーディオ用電源ケーブルは買ってはいけない」とこういう風に思われてしまうなら、もうすでに市場への信頼は完全に失われているということですから、黙っているよりも話したほうが良いと思ったわけです。

 それにここではケーブルの目利きの仕方を書いているだけで、特定のメーカーの特定の商品を買うなとは言っていないですからね。
あくまで「馬力が高くて、車体が軽くて、タイヤが太い車のほうが速く走れるよ」程度のことを書いているだけ。すべてが分かるわけではないがカタログスペックからもある程度のことは分かる。現状、オーディオの世界では上級者でもこのレベルのことすら分かっていないのです。
もっとも市販品を買うだけでは絶対に見えないことなので分からないのは仕方ないのですが、自動車の世界なら実際に作っていなくてもこの程度のことは分かるんだよね。だからやっぱり作る側に問題があるのだとは思います。


そんなこと言ってもしょうがないし、怒られそうだから、オヤイデ見ていてちょっと良いなと思ったケーブルも紹介しておく。

ACROLINK 7N-PC4020 Leggenda

3線のキャブタイヤタイプなので構造的なメリットはないけど、導体量は2sq程度に抑えられてて、ストランドも18本で、全体的な構成を見ても、そんなおかしな音は出さないと思う。プラグがロジウムというのが気に入らないけど、肉厚銀メッキ(1.5μ)+ロジウムメッキ(0.3μ)の2層メッキだからギリOKか?私なら切り売りで買ってプラグはFI-28M(G)とFI-C15(G)の組み合わせにするかな。FI-C15(G)めっちゃいいよ。特別音質が良いって感じはしないけど、液晶モニターのインレットに差せるし、何かと使い勝手が良い。インレットプラグはこれ以外考えられない。
FI-28M(G)はブレードが表面研磨されてる以上の音質的メリットは感じなかった。でもデザインは好き。FI-25M(G)と似たような音質だと思う。FI-11M(G)の1ランク上の音かな。そう考えるとコスパ悪い。だけど、現行のFI-11M-N1(G)は8000円くらいするんだね。昔はFI-11M(G)が3800円くらいで買えたような気がしましたが。。。それならFI-28M(G)のほうが良いでしょう。2000-3000円差なら十分ペイする音質差なので。FI-C15(G)と同じメーカーに拘らないなら他社のプラグでも良いけど。





■最後にこの話はめっきの話から繋がってきたので、最後はめっきの話で締めようと思う。
ロジウムめっきについて結論を書くと、ロジウムめっきは聴感上も音良くないし、めっき層が1層増えたくらいであの音なら、ロジウム自体に継ぎ足しで劇的に音質を向上させる効果はなさそうな感じ。ロジウムは聴感上は理想的と思えないし、導電率自体金に劣っているので、わざわざ高価なロジウムを採用する合理的な理由は見いだせない。

上で紹介している7N-PC4020 Leggendaのプラグなら銀+ロジウムの2層めっきなので、めっき層の数で言うと金めっきと同等レベルの音質が出せる可能性があるというくらいだろうか。
だがしかし、密着とか腐食の問題があるからロジウムは多層の下地めっきになっているのだから、それを無理やり一層の下地めっきにしたら信頼性に問題が出そうな気がするよね。私が試したロジウム製品は(下地めっきが何層かはわからないが)めっきがすぐに剥がれてその点でも印象がめちゃくちゃ悪い。(私はロジウムが嫌いなので、そのへんは割り引いて読んでください)

記事を書き終わって今凄いことに気がついたのだが、ロジウムは聴感上音悪いんだよ。つまり最初の「余計なもの追加して音質が良くなる現象あるよね?電源ケーブルとか。ならロジウムめっきも同じ現象で音質良くなってるんじゃないの?」という疑問自体が生じないことに気がついた。そもそも音良くなってない!